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おすすめラノベ紹介/魔王2099 1.電子荒廃都市サイバーパンクシティ・新宿

魔王2099 1.電子荒廃都市サイバーパンクシティ・新宿

魔王2099 1.電子荒廃都市・新宿 (富士見ファンタジア文庫)

レーベル;ファンタジア文庫
著者;紫大悟
イラストレーター;クレタ
発売日;2021/01
関連ワード;魔王 勇者 ファンタジー サイバーパンク バトル

魔王2099 1.電子荒廃都市サイバーパンクシティ・新宿/カンタンなあらすじ

魔王ベルトールが勇者グラムに敗北し、500年の時が流れた。
ベルトールの忠実なるしもべであるマキナは復活の儀式を行い、魔王を再び世界に呼び戻す。
再誕して早々にベルトールは再び世界を手中に収めるべく動こうとしたが、蘇った地にかつての世界の様相はなかった。
過去支配していた魔法文明世界の『アルネス』は別次元の機械文明世界『アース』と融合を起こした。それによって世界はただの時の流れとは異なる別の劇的な変化を生じさせていた。
そこでは魔王はもはや時代遅れの存在となってしまっていた。技術の進歩に取り残され、かつての家臣もほとんど失い、信仰も恐怖も薄れて力もろくに振るえない身となる。
かつては下に見ていた者から踏みつけにされても、しかし、ベルトールは魔王として屈さなかった。必ずや再び世界の頂点に立つ。その思いを胸にこの新宿の地でマキナと共にゼロからのスタートをする。

魔王2099 1.電子荒廃都市サイバーパンクシティ・新宿/登場人物紹介

ベルトール=ベルベット・ベールシュバルト

アルネスの魔族を統べる魔王。もともとヒトであったが、不死となったことで魔族となった。勇者によって討伐されたが、500年の時を経て復活を遂げた。

マキナ=ソレージュ

六魔候の一柱で煌灼侯。外見は人に近いが、人でなくイグニアという種族。ベルトールに対する忠誠心は誰より高く、悲願であった魔王復活の儀式を行う。

高橋

新宿でのマキナの数少ない友人の一人。凄腕のハッカーで、命の危険に曝されるような非合法な仕事もこなす。

グラム

魔王ベルトールを討伐した勇者。魔王亡き世界で救いを求める人もいなくなり、勇者としての役割を失ってしまった。女神の力によって不老にされている。

マルキュス

六魔候の一柱で血術侯。ダークエルフ種で魔導技術への理解が高く、科学技術にも対応し、新しい時代で力をつける。新宿市の大企業石丸魔導重工の社長。

木ノ原

石丸魔導重工の社長秘書。戦闘訓練を重ねた実力者。マスコットキャラクターのイシマルくんがお気に入り。

魔王2099 1.電子荒廃都市サイバーパンクシティ・新宿/感想・レビュー

第33回ファンタジア大賞の大賞作品になります。およそ1000もの応募作品の中で、編集者やプロの作家が最も優れていると評価したものになります。期待に違わぬ秀逸で面白い作品でした。
本作は剣と魔法ファンタジーからサイバーパンクまでそれぞれのテイストの入り混じった独特の世界観になっています。双方が持つ特徴と異なる色を主張し合いながらも、繋がり合って調和し、彩あるストーリーが完成していました。
一つの世界にこれだけ多く設定を盛って詰め込んでしまったら、ごちゃごちゃとして読み手の混乱を招くリスクも大きくあったはずです。しかし、既存の枠組みを多く活用することで、わかりにくい設定を排除して、理解への負担を軽減していました。色々なファンタジー系作品を知っているラノベ読者であれば、見慣れた概念で説明もそれほど苦もなく呑み込めるのではないでしょうか。
よくあるベタ要素をただ並べ立てただけでなく、新しい一つの世界を練り上げ、読むものを飽きさせない表情をたくさん見せてくれました。著者のジャンルへの研究と分析、そして確かな力量を感じとることができました。
序盤はあまり珍しさのない魔王と勇者モノの描写ですが、メインである世界が変わるあたりからグンと面白さが上がります。特に主人公の魔王ベルトールが慣れぬ環境に身を置きながらも、生きぬいていく姿は魅力に溢れていました。力の優位性を失っても、支配者としての器量と柔軟性を示していたのも『魔王』という立場のキャラクターとして実に相応しく大変好ましかったです。
コメディタッチな部分とシリアスな部分のバランスも程よくテンポを損なわず、読みやすかったです。
世界、設定、ストーリーと総じてレベルが高くまとまっていた作品でしたが、個人的な不満点をあえて挙げるとすれば、二つあります。
一つは、主人公以外のキャラクターの魅力度です。世界が世界だけに、それに対して陰らないようにベルトールに関しては、物語の中で生き生き輝がせていたのは言うまでもなく素晴らしかったです。キャラクター小説として、他のキャラも主人公レベルほどとは言いませんが、もう一段ずつ魅力が上乗せされていれば嬉しかったです。
例えばマキナは、ヒロインとしてあれでもまだ控えめだったでしょうか。ベルトールとのやりとりも少なかった気がします。世界やベルトールに負けずに並ぶためには、もっと強く主張して良かったのかなと思います。
木ノ原も役割はわかるのですが、ベルトールは勿論のこと、マルキュスとの繋がりさえも薄く、あまりに本筋に影響を持たないキャラクターでした。最低限役割を演じる以外のサブとしての輝きも見えずに最後までいってしまったのが辛かったです。詰め込み気味な作品だからこそ、キャラ描写における必要不必要のカットの選択はシビアだっただろうとは察せます。
もう一つは、ラストバトルです。個人的には魔導と科学を合わせた世界がこの作品の肝だと思っています。だからこそ、ラストバトルという物語が最高潮に盛り上がるシーンはしっかりこれを活かすべきで、もっと科学技術に頼っても良かったのではと感じました。
正直、ベルトールとラスボスのバトルでは、ほとんど魔導のぶつかり合いのシーンになっていたのは、ちょっと残念でした。もちろん『ファミリア』という機械の仕掛けがありますが、それを利用してやっていることは、魔法戦になります。最後の最後にこれでは、新世界の甲斐なく既存のありがちなファンタジーと結局見た目にそれほど差がありません。
世界の歩みとしては、不死サイドに対抗する技術が生まれているわけで、そうしたわかりやすい兵器をもっと活用しても良かったと感じました。それならばラスボス側の手も広がりますし、派手さも演出できます。ベルトールの魔王としての圧倒的な実力も読者により強いインパクトとして残せる形になったはずです。
とはいえ、これらの不満点は、全体の完成度が高かったがゆえに、目についてしまった小さな粗ですので、殊更あげつらうような部分でもないです。ユニークで面白いストーリーであったことは揺るぎありません。
これから続巻が出るのか、新たなシリーズになるのか現時点で確定されていないのでわかりませんが、著者のこの豊かな発想は素晴らしいので、次のお話にどう活かされていくのか期待です。

ひとくちおすすめポイントまとめ

  • ファンタジーサイバーパンクが融合した新しいユニークな世界!
  • 魅力あふれる魔王が再び支配者に返り咲くべく奮闘する王道成り上がりストーリー!

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