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ライトノベルを中心とした小説や物語のレビューブログ

おすすめラノベ紹介/あなたを救いに未来から来たと言うヒロインは三人目ですけど?

あなたを救いに未来から来たと言うヒロインは三人目ですけど?

あなたを救いに未来から来たと言うヒロインは三人目ですけど? (富士見ファンタジア文庫)

レーベル;ファンタジア文庫
著者;氷純
イラスト;うらたあさお
発売日;2021/4/20

あなたを救いに未来から来たと言うヒロインは三人目ですけど?/カンタンなあらすじ

白杉巴は高校二年となる新学期早々に教室でクラスメートの笹篠明華に突然告白される。
明華とは中学の頃から今までの5年間同じクラスではあったものの、それ以上の親しい関わり合いが全くなかった。
告白の理由に思い当たらず巴が戸惑っていると、明華は自分が未来人であると説明する。
近い将来、明華と巴は恋人関係になるが、しかし巴はトラックに轢かれて死亡する――その未来を回避すべく明華は「やり直し」に来ていた。
ひとまず返事を保留する巴だったが、その日のうちにアルバイト先の喫茶店で後輩の迅堂春からも同様の告白を受け、さらに、幼馴染で又従姉弟である松瀬海空も加わってくる。
巴は三人の未来人に迫られながら、死の運命を変えるべく奔走する。

あなたを救いに未来から来たと言うヒロインは三人目ですけど?/登場人物紹介

白杉巴

地元の名士である松瀬の親戚である白杉の人間。本家からの依頼を受けることで一族の助っ人をしている。

笹篠明華

日仏のハーフで人目を引く容姿をしている。巴とは腐れ縁で中学のころから同じクラスだった。未来人であり、巴を救うために過去にやり直しに来ている。

迅堂春

明るいムードメーカーで巴の一つ下の後輩。カフェでアルバイトとして働く際に巴に一目惚れする。明華同じく未来人の一人。

松瀬海空

巴の又従姉弟で松瀬本家のお嬢様で未来人。一族の当主として非常に有能であるが、実はだらしない引きこもりという裏の一面ももっている。趣味はデイトレード

あなたを救いに未来から来たと言うヒロインは三人目ですけど?/感想・レビュー

ストーリー

未来からの時間遡行をテーマにしたループもの作品です。内容としては、「死」という特定の結末への問題解決をはかるために運命改変を試みるタイプのお話になります。
登場人物の死という悲劇的な要素と複数の女性に取り合いされるというラブコメの喜劇的要素を同居させ、緩急のコントラストをはっきり効かせることで豊かな彩りが出ています。謎を追うミステリー要素も巧みに織り交ぜており、展開を追う楽しさを濃く感じさせてくれました。
また、作中ではテニスの試合に関する描写がしっかりと描かれており、青春スポーツ系の側面も併せ持っています。幅広くバラエティに富んだ内容で、飽きさせない工夫が随所に施されている印象が非常に強い作品でした。
一つ一つの要素についても中途半端でなく、良質な形として丁寧に仕上がっています。雑に並べず、ループものを軸としながら全体で自然となじませていたのもポイントが高いです。
独自の緊張感や熱さといった良さを主張し、スタンダードなラブコメものとは大きな差別化が図られていました。
メインの恋愛部分に関しては、複数ヒロインによるハーレム展開なためやや好みは別れるところです。物語の都合上、スタートからヒロインの好意が全開でヒロインとの出会いも劇的なものでありません。そのため、いわゆる距離感を縮めていく、恋心を育てていくといった過程の楽しみはほとんど省かれています。何故主人公を好きになる段階に至ったのかという説明もされていませんので、そうした部分を求めたい方には少し物足りないかもしれません。
ヒロインとのイチャイチャや複数ヒロインによる鞘当てのシーンには事欠きませんので、手早くシンプルにニヤニヤしたい方にはお勧めです。

キャラクター

複数ヒロインもののラブコメだと往々にして主人公が好感を持ちにくいタイプや癖が強すぎるタイプなどが散見されますが、本作主人公の白杉巴はとても良いバランスでキャラメイクがなされていました。
消極的な性質もなく、かといって変に特殊だったり、強烈すぎる個性もありません。読み手にとって受け入れるハードルがとても低く感じられました。
目的のために必死に頭使ったり、積極的に頑張る姿勢といった主人公の資質も十分見られるため、共感と好感がもてます。
また、ヒロインが多くのやり直しを経験した未来人で好意のギャップが強くある設定もあって、ハーレムものに発生しがちな「だらしなさ」や「主人公への不快感」を上手く緩和されています。
上のストーリーの感想でも触れましたが、この作品はラブコメしたり、ミステリーしたり、スポーツしたりなので、その中心に据えられた主人公が親しみを持ちやすいキャラクターであったのは、素晴らしかったです。
ブコメを支えるヒロインですが、未来人で主人公を助けに来たという属性が三人とも被っていますが、それぞれ違った可愛さを見せてくれます。年上、年下、同級生と各種揃えているところも行き届いてます。しかし、複数ヒロインの都合や、ループものSFとしての要素などいろいろな描写に文章を割く必要があったことなどで、全てのヒロインの魅力を十分に伝わるには難しいところもありました。
メインとして笹篠明華は存在感が十分だったのですが、その分、迅堂春や松瀬海空のヒロインとしての輝きはやや弱かった印象は否めません。
このあたりの描写は次巻以降で解消される問題でもありますので、次の二人のヒロインのメインの話が読めることを期待したいと思います。

ひとくちおすすめポイントまとめ

  • SFループものを軸にラブコメ、ミステリー、スポーツを混ぜた色彩豊かなストーリー!
  • 積極的に運命に抗い改変しようと動く熱いキャラクター!

おすすめラノベ紹介/時をかけてきた娘、増えました。

時をかけてきた娘、増えました。

時をかけてきた娘、増えました。 (ガガガ文庫)


レーベル;ガガガ文庫
著者;今慈ムジナ
イラスト;木なこ
発売日2021/4/20
関連ワード;恋愛 学生 娘 タイムワープ

時をかけてきた娘、増えました。/カンタンなあらすじ

清水大地は同じクラスの安達藍に想いを寄せていたが、ろくに話かけられもせず一歩も踏み出せない日々を送っていた。
演劇の才能があって、容姿にも恵まれた藍に対して、大地には何の取り柄もない。
釣り合わないことは痛いほど理解していて、傷つくのも怖くて、だから胸に想いを秘めたまま過ごそうと決意していた。
しかし、ある日突然、部屋に黒い穴が発生すると、そこから目の前にどこか想い人の面影を残すセーラー服姿の美少女・七彩が現れた。
彼女は大地の娘を名乗り、未来からタイムワープしてきたことを告げる。
将来、藍と結婚することと同時、自分の劣等感が原因で家族に大きな迷惑をかけることを知った大地は、七彩の協力のもと勇気を振り絞って一歩を踏み出していく。

時をかけてきた娘、増えました。/登場人物紹介

清水大

住友高校二年生。おとなしく中性的な容姿をしている。特別な何かになりたいと思いつつも、失敗を重ねたため自分に自信が持てていない。

安達七彩

未来の大女優、安達藍の娘。親にはあまり似ずしっかり者の一面を持つ。失敗ばかりでコンプレックスを持ってしまうダメダメな父である大地をなんとかするため未来からやってきた。

安達藍

演劇部の副部長。類まれなる演技の才能があるが、それ以外のことになるとやや抜けがちなところがある。クールで無表情なため近寄りがたいイメージを持たれている。

清水花蓮

未来からやってきた小日向宇美との娘。父や母と似ず気が強く活発な性格をしている。自他ともに認めるファザコン

小日向 宇美

大地のクラスメイト。引っ込み思案でクラスでも目立たず孤立した存在だが、声に特徴があり、華やかである。「ミウちゃんΩ」というVtuberとして活動をしている。

持田恵

演劇部所属で安達藍の友人。周囲に避けられがちな藍にもしっかりと付き合い支える良き理解者。

時をかけてきた娘、増えました。/感想・レビュー

ストーリー

未来からヒロインとの娘が主人公のもとにやってくるという設定の物語です。目新しさ自体はありませんが、古くから愛用されており、広く好かれるだろう設定になります。大きなひねりも入れていないスタンダードタイプに近いのでこういうのが読みたかったという人にはかなりぴったりの内容かと思います。
タイムワープを使ってますが、設定や説明など余計に凝っていることもありません。複雑さも極力排除されており、わかりやすくシンプルにラブコメのみに注力して楽しむことができます。現代受けしやすいようにストレス軽減して、読みやすく配慮された形です。
ラブとコメの配分比率も優れていました。二つの親娘を軸に交互にヒロインを攻略しながら、恋愛を進めるところ、コミカルなシーンで緩ませるところ、シリアスで締めるところなどバランスよく緩急がついていました。ラブコメものに当たり前に期待されるものだからこそ、過不足なく提供されており好印象でした。
ありきたりな設定だけに、そこに展開される物語への水準は厳しいはずですが、飽きることなく楽しく読み進められました。

キャラクター

「娘が増えました」という設定上、複数の娘が登場するため、ヒロインと合わせると最初からキャラクターはやや多めです。それでもキャラの描き分けは上手く、それぞれの個性もはっきりとしており、読み手が混乱することはほとんどありません。
主人公に関しては、「中性的」「優柔不断」「クラスでは目立たないポジション」「自分に自信がなくネガティブ」とお手本のような典型的ラブコメ主人公でした。ここは好き嫌い別れるポイントかもしれません。しかし、消極的だったり、優柔不断だからこそ、それを活かすことで動く物語でもありました。大地が他の娘に気を持ってしまうがゆえに、娘が増える可能性がでてくるので、面白い要素の一つと言えます。
また、なかなかアクションを取ろうとしないからこそ、必然的に側に立つ娘がいろいろ強引に画策していくのも、物語の主軸である娘キャラ個々の味が感じやすく、見せたい部分の主張がはっきりしていました。
娘を幼い年齢にせず、あえて同年代の設定にしたのも面白いところです。これによって親娘で同年代の友達のような関係性が築かれているのも、この作品の特徴です。親娘が並んでも、キャラが沈まないように対照的な性格に描かれていますので、相互に魅力が引き立っていました。
気になる点として、この手の設定の宿命か、どうしても娘とセットであることや、娘の方が主人公と近く、多くのやり取りをこなすため、メインヒロイン単体としての関心が分散したり、印象が薄くなりがちになるところでしょうか。親娘という一粒で二度おいしい反面、そこはデメリットかもしれません。
存在感が弱くなりすぎないように、キャラ立ちの部分はしっかりしていました。天才キャラという表現の難しいキャラクターでしたが、その特殊さが、台詞や行動からしっかり滲み出て伝わってきました。恋愛部分でのギャップもあり、可愛さ、破壊力も十分高かったです。
娘の一人のファザコン設定もありがちといえばありがちでしたが、表出のさせ方が巧みでした。終始むやみやたらと異常な好意を押し出すタイプでないので、安っぽさが全くありません。ヒロインである親の魅力を食いすぎず、かつ存在感も十分発揮する絶妙な塩梅でした。
タイトルどおり今後も娘が増えるとなると、必然的に親娘の2人が新キャラとして登場するわけですが、どのように描き分けや個性の出し方をしていくのかもこれから注目していきたいポイントになりそうです。

ひとくちおすすめポイントまとめ

  • 対照的な親娘の可愛らしいキャラクター!
  • 定番でありがちな設定ながら、現代向けに洗練させたラブコメディ!

おすすめラノベ紹介/魔王2099 2.電脳魔導都市・秋葉原

魔王2099 2.電脳魔導都市・秋葉原

魔王2099 2.電脳魔導都市・秋葉原 (ファンタジア文庫)

レーベル;ファンタジア文庫
著者;紫大悟
イラストレーター;クレタ
発売日;2021/4/20
関連ワード;魔王 勇者 ファンタジー サイバーパンク バトル

 

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yomukakunovelove.hatenablog.com

魔王2099 2.電脳魔導都市・秋葉原/カンタンなあらすじ

魔王ベルトールはかつて最も自身に近かった配下である六魔候の消息のことが気にかかっていた。
現時点で把握できているのは、マキナ、マルキュス、ゼノールの三柱。残りの六魔候は未だその行方が明らかでなかった。
手掛かりとなるのは、古の魔導具「魔候録」。それは、六魔候の魔力と行動が記録された書物だった。
ベルトールは凄腕ハッカーである高橋の力を頼ることで、魔候録の情報を収集する。
所在の候補地として浮上したのは、電脳魔導都市・秋葉原市。魔法学園の地下宝物庫だった。
ベルトールは生徒として短期留学し、正面から学園に潜入する。
しかし、地下宝物庫には魔法で封印がかけられており、三つの「王徴」が揃わないと開かない仕組みになっていた。

魔王2099 2.電脳魔導都市・秋葉原/登場人物紹介

山田・レイナード・緋月

秋葉原魔法学園の女生徒。秋葉原御三家の一つレイナード家の当主であるが、「王徴」を失っていることに加えて魔法の才がないことで周囲からは馬鹿にされている。

トラート・ゲーテ

秋葉原御三家ゲーテル家の当主。秋葉原魔法学園の理事長を務めている。長命種のエルフ族で、全身を機械化している。

コルネア・セルブド

秋葉原御三家セルブド家の当主。セルブド商会のトップを務めている。没落寸前だったセルブド家を立てなおした商才に富むゴブリン。

魔王2099 2.電脳魔導都市・秋葉原/感想・レビュー

ファンタジーサイバーパンクを融合した魔王ものの第二弾になります。一つ一つはありがちな要素なものの、それらを上手く混ぜ合わせ調理することで独特な魅力がしっかり作られた作品です。今回もまたそのごちゃ混ぜ感の持ち味が遺憾なく発揮されていました。
2巻では、意外にも学園ものの要素を新しく取り込まれてました。ファンタジーと学園の組み合わせ自体はラノベに限らずもはや手垢が沢山ついています。登場するのもまた落ちこぼれ生徒やいけ好かない貴族の坊ちゃんなどどこかで見たような古典的設定ともいえる生徒達です。
展開されるのは当然こてこてのお約束ともいえる流れではありますが、それでもどれも楽しむ読み進めることができました。偏に主人公が持つ際立つ個性のおかげです。主人公という軸がしっかり安定していて、そのベースを活かしているからこそ、テンプレでも愉快なストーリーが仕上がっています。
料理の仕方は新たな材料を加えてもあくまでシンプルに。そして、シンプルゆえにメインとなる主人公の濃い味がはっきり引き立ち、慣れた味から離れることでマンネリ感を抑えこんでいます。
読み進めながら学園生活でベルトールがきっと何か起こしてくれるだろうという予感が常にあり、その期待に違わぬ動きを見せて楽しませてくれます。ワクワクした感情を抱きながらページをめくれるのは、大変心地よかったです。
ベルトールを軸に新たに構築される関係性も良かったです。それだけに学園生活が前半部分だけでほとんど終わってしまったのが、やや残念で、個人的にはもう少し学生として暴れまわるベルトールの姿が見ていたかった気がします。
2巻におけるもう一つの新しい部分は新ヒロインキャラ緋月の登場です。緋月も、メインとしての存在感を放っていました。決して新しいタイプのヒロインであるとは言えませんが、こちらも個性と魅力が輝いています。マキナや高橋とも被らず、特に異なる部分として奔放なベルトールに振り回される様子が見えやすく、役割と配置が見事でした。やりとりが多くコメディ、シリアス両面のバランスもとれていました。ヒロイン性も随所で発揮していて、非常に好印象を受けます。
キャラクター小説としてクオリティが素晴らしく、全体として読者満足度が高かった印象です。
今回終始かなりファンタジー色が強い話でしたが、逆に次回は科学方面が強くなるのでしょうか。もしかしたらまた新たな別の何かが加わるのかもしれません。ごちゃ混ぜと言えど無闇矢鱈な盛り付けをせず、配分を考えながら調理している著者ですので、次がどういった舞台になり、どのような物語が展開されるのかとても楽しみです。

ひとくちおすすめポイントまとめ

  • わかりやすくシンプルな展開で際立つ主人公の魅力!
  • 新ヒロイン緋月の登場で関係性の幅と深みがパワーアップ!

 

おすすめラノベ紹介/現実でラブコメできないとだれが決めた?

現実でラブコメできないとだれが決めた?

現実でラブコメできないとだれが決めた? (ガガガ文庫)

レーベル;ガガガ文庫
著:初鹿野 創
イラスト:椎名くろ
発売日;2020/07/17
関連ワード;学生 ラブコメ

現実でラブコメできないとだれが決めた?/カンタンなあらすじ

リアルとフィクションは全く違う。
そうであるのならば、ラブコメとは架空の存在でしかないのだろうか?
――長坂耕平は、その問いに否を突き付けた。
仮に現実の世界に自然と起きないのであれば、自分で起こしてしまえばいい。耕平は、自らの理想を求めないままではいられなかった。
熱意と執着を持ってインプットとアウトプット、計画と行動を繰り返していく。
そしてある日、耕平は理想とするラブコメシーンを自らの手によって生み出した。
それこそは、明るく清楚なマドンナを屋上に呼び出しての告白イベント。まるで小説の世界のような事実が具現化されたはずだった。
しかし――
「大馬鹿野郎」
目の前に降って湧いたのは、予定外のキャラクターとシナリオだった。


現実でラブコメできないとだれが決めた?/登場人物紹介

長坂耕平

ブコメが大好きなオタクで、それを現実のものにしようとする男。データ分析が得意。

上野原彩乃

1年5組所属。美人で聡明だが、やや理屈っぽくある。甘いものに目がなく、過剰に摂取している。

清里芽衣

1年4組のマドンナ的存在。容姿と性格含めて天使を思わせる完璧女子で、耕平が告白しようとしたメインヒロイン候補。

勝沼あゆみ

4組のクラス内で最大派閥を築いている金髪のギャル。何かと耕平を目の敵にしている。

現実でラブコメできないとだれが決めた?/感想・レビュー

やや異彩を放つ特殊な学園ラブコメ作品になってます。大変個性と挑戦心の強い面白い作風でした。
タイトルが「現実でラブコメができないと誰が決めた?」という思わず目を引くワードで、その内容もラブコメを非現実的と捉えている観念を利用したものとなっています。
学園ラブコメと言えば、これまで多くの作品によって築かれたいわゆる定番的要素があります。例えば複数の美少女ヒロインキャラとイチャイチャしたり、気の置けない親友キャラとドタバタ大騒ぎ起こしたり、学校行事でドラマティックなことが起こったりなどです。ラッキースケベといったお色気系ハプニングなどもお約束でしょうか。
これらはフィクションの世界だからこそ当たり前のように存在し、成立しています。我々もそれらは、現実では都合が良くてほぼあり得ないものの代表と共通認識を抱いており、ゆえにそれを小説の世界に求め、仮想の体験として楽しんでいます。
この作品では、そうした認識をベースにして、設定と物語の流れが構成されています。コンセプトは「ラブコメのシーンやシチュエーションを現実に起こす」というものです。
これによって、「虚構の世界と住人」が「ラブコメという虚構」を必死に作り上げていくという奇妙でありながら、ユニークな構図が生まれました。非常に独特で優れた着眼点による新しい切り口だと感心を覚えます。
決まった枠組みを避けるのでなく、あえて目指すことで逆に新鮮な恋愛ドラマがあります。王道たる定型をしっかり拾って活かしつつ、王道と重ねないそのやり口は巧みで見事でした。
導入部もボーイミーツガールというスタイルをとりつつも、他では見ない形に仕上がってます。ラブコメに常に付きまとうどこかで見た展開という問題も独自の方向性によって自然と乗り越えています。
また、アイデアにのみ勝負を頼ることなく物語を織りなすキャラクターも普通でない魅力をしっかり感じさせてくれました。
いずれの登場人物も、ラブコメ的なテンプレキャラクターを含ませつつも一癖も二癖もありそうな良い味を持っています。それぞれの書き分けもはっきりしており、役割もわかりやすく配置されています。
何より印象的だったのは、主人公の長坂耕平です。彼は本当に気持ち悪くて歪な状態ではありましたが、確かなインパクトを与えてくれました。
無個性とは真逆で、受け身がちとも正反対の素晴らしい行動力と牽引力を有しており、常に作品の中心に立ち、その存在感は終始圧倒的でした。
万人受けするような好感度が高いタイプの主人公ではありませんが、その充溢したエネルギーは実に魅力的で、彼のつくりあげる物語を読みたいと思わせる強い力があります。
並び立つヒロインキャラも負けておらず、特に上野原彩乃は、動きも含めて好印象でした。
都合よくも主人公のことを受け入れてくれる寛容性と主人公を陰になり日向になりサポートする献身性といったありかたは実に典型的ヒロイン像の体現でした。
ブコメヒロインっぽくない現実的側面とラブコメヒロインっぽい虚構的側面の交錯のさせ方が絶妙で、この作品ならではの可愛らしさがよく引き出されています。もう一人のヒロインキャラクター清里芽衣との対比という面でもばっちりでした。
主人公、ヒロインのキャラが立っており、ストーリーの基盤も豊かな発想に支えられ、総じて非常にバランス良く完成度の高い作品となっていました。
少し人を選びそうな部分を挙げるのならば、個性的でやや尖っているところやパロディ面が若干強いところでしょうか。
他所の作品の名前やネタをあえて使用すること自体は、内部で「長坂耕平が生きる現実」と「フィクションの世界」の階層を作り出す効果もありますので、一概に悪い部分であるとは言えません。しかし、やや用量が過剰に感じて、一部別の表現のほうが受けの幅が広がったのかなと個人的には感じました。
良くも悪くも著者のラブコメ愛がいっぱい詰まった作品だと思います。ラブコメが好きでよく読んでいる方ほど刺さりやすいはずですので、王道を愛しつつもちょっと変化球的なラブコメも味わいたい方には是非おすすめしたいです。 

ひとくちおすすめポイントまとめ

  • 独創的な着眼点で描かれたラブコメをつくるラブコメストーリー!
  • このキャラが紡ぐ物語を見たいと思わせるパワー十分な主人公と魅力的なヒロイン!

 

おすすめラノベ紹介/男女の友情は成立する?(いや、しないっ!!) Flag 2. じゃあ、30になっても独身だったらアタシにしときなよ?

男女の友情は成立する?(いや、しないっ!!) Flag 2. じゃあ、30になっても独身だったらアタシにしときなよ?

男女の友情は成立する?(いや、しないっ!!) Flag 2. じゃあ、ほんとにアタシと付き合っちゃう? (電撃文庫)

レーベル;電撃文庫
著者;七菜 なな
イラスト;Parum
発売日2021/3/9
関連ワード;恋愛 学生 花

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男女の友情は成立する?(いや、しないっ!!) Flag 2. じゃあ、30になっても独身だったらアタシにしときなよ?/カンタンなあらすじ

榎本凛音との出会いをきっかけに夏目悠宇と犬塚日葵は互いに恋慕の情を抱いていることを自覚し始めた。
夢のため、特別な存在として側にいるという打算のため、二人はかつて誓い合った永遠の「親友」の契りが壊れないように立ちまわる。
しかし、一度自覚した恋は、友人としての距離感を少しづつ狂わせ始める。不変の『親友』を振舞ってるつもりが、どこか不自然さが態度に表れてしまっていた。
これまで通りにはいられない二人――関係の停滞を拒む変化は周囲からも次々と迫ってくる。
youの身バレ、悠宇の退学危機、激怒の雲雀、真木島の暗躍、そして、凛音の急接近。
悠宇と日葵はそれぞれ目を背けていたものに自然と向き合うこととなっていく。


男女の友情は成立する?(いや、しないっ!!) Flag 2. じゃあ、30になっても独身だったらアタシにしときなよ?/感想・レビュー

「だんじょる」こと男女の友情は成立する?の2巻目になります。1巻では時流に沿う作品であると評価しました。
さらりと読める気軽な今風のラブコメとして、昨今のラノベ読者層に広く支持を受けるタイプです。
2巻も、同様に非常に読みやすいと感じました。快いテンポと受け入れやすさは、高いリーダビリティを示しています。読み手の理解に過度な負担なく、気楽にページをめくる手が最後まで動きました。訪れる展開も次々とスピーディで良かったです。
本作は、「男女間での友情の成立」に主眼を置いています。1巻では、友情の成立から恋の自覚。そして2巻では、恋心を悟らせないように友情を成立させようと動くという形となっています。
親友という関係はそのままに置きつつも、心情の変化によりひと味変えて、新たな恋愛模様を楽しむことができます。
恋に落ちることによる視野の狭さや臆病になる気持ちと過敏さなどの表現は、共感しやすいポイントです。悠宇と日葵のお互いの視点を巧みに入れ替えながら豊かな心情を生き生き描いています。
また、2巻では、凛音がサブヒロインとして活躍することもあり、恋愛要素がより色濃くなりました。三人が絡む新たな関係性も良い広がりと奥行きを見せています。
わかりやすく恋愛ドラマとしてまとまりながらも、ラブコメに必要な要素が無駄なくぎっしり盛り込まれています。恋愛部分での満足感は非常に高いと感じました。
甘々なシーンも多めではありますが、それだけでなくシリアスな部分も用いて、しっかり締めるところを締める塩梅も見事でした。
これからの物語の課題となりそうなのは、主人公・悠宇の魅力をどうみせていくかでしょうか。
作中「パワーバランス」の話になりましたが、読み手にとってもそろそろ悠宇と日葵をはじめとする周囲とのバランスが気になり始める頃合です。
悠宇は日葵だけでも十分なのに、今回ではさらに凛音から深い愛情を注がれています。さらには日葵の兄である雲雀や友人の真木島にも目をかけられている様子がはっきりしています。
そうした働きは増しているのに、それに見合うだけの主人公としての魅力の部分がやや弱く、今のところ読み手にとってまだ漠然としています。
物語の中で主人公を中心として捉えています。個性もあります。弱さも成長もありました。だからこれは、主人公が持つべき「熱」というエネルギーの部分に関する問題だと思います。
2巻を読み終えた後、振り返ると主人公に対する印象が総じて薄く、台詞も心情や行動も心に残る部分がいまいち少なかったのが唯一惜しかった点です。
主人公たちの世代とその兄や姉など大人たちの世代というキャラメイクや関係性における構築力は十二分に優れています。
キャラクターに込められた並々ならぬ熱量が作品の中で全力で表現され、それが最大限読み手に伝われば、我々読者は最高の幸せと感動体験を得られます。
次回の3巻は凛音の姉や真木島の揺さぶりの物語です。
現状、「絆の崩壊危機とそれを乗り換えて強まる絆」という王道とも言える展開の基盤が出来上がってます。
ある程度やり口が似通ってはしまうからこそ、おそらくそれだけに終わらない予想を超える意外な展開が待っているものと思われます。話題作という高いハードルはありますが、お約束の甘い展開と共に心震わす刺激と衝撃を期待したいです。

ひとくちおすすめポイントまとめ

  • ストレスが少なく、昨今の嗜好にあったわかりやすい今風のラブコメ
  • 凛音も加わり三人での新しい関係と恋愛模様に発展!

おすすめラノベ紹介/他人を寄せつけない無愛想な女子に説教したら、めちゃくちゃ懐かれた

他人を寄せつけない無愛想な女子に説教したら、めちゃくちゃ懐かれた

他人を寄せつけない無愛想な女子に説教したら、めちゃくちゃ懐かれた (角川スニーカー文庫)

レーベル;スニーカー文庫
著;向原 三吉
イラスト;いちかわ はる
発売日2021/3/31
関連ワード;学生 青春 恋愛 不良

他人を寄せつけない無愛想な女子に説教したら、めちゃくちゃ懐かれた/カンタンなあらすじ

大楠直哉は、品行方正、成績優秀と絵にかいたような模範的優等生だ。クラス委員長として、同級生のみならず、教師からも高く信頼され、何かと頼りにされることも多かった。
ある日、直哉が担任の城山から相談されたのは、クラスメートの江南梨沙のことだった。江南は、直哉とは対照的に素行不良の問題児として知られている。サボりや遅刻も当たり前で、進路希望の面談もただ一人進まず学校として好ましくない状態にあった。
放課後、直哉は江南と話してみるが、忠言はやはり素直に聞き入れてもらえなかった。そればかりか、直哉の態度や言い方に対しても不満を露わにし、逆に批難を浴びせられる。
そうした江南の自分勝手な振舞いを直哉は看過できず、思わず自分の中の感情を剥きだしにして説教をぶつけてしまう。
話し合いとしては失敗どころか最低なやりとりで終わってしまったと直哉は悔やむが――その日から、江南の素行、そして直哉に対する態度は、なぜか変わっていく。

他人を寄せつけない無愛想な女子に説教したら、めちゃくちゃ懐かれた/登場人物紹介

大楠直哉

クラス委員を務める優等生で成績も学年1位をキープしている努力家。生真面目で人から頼られると断れない性格をしている。

江南梨沙

教師が手を焼くほど素行に問題を抱える不良少女。人も寄せ付けずほとんど孤立している。

花咲詩織

直哉と共にクラス委員を務める。学業も優秀で学年1位の直哉のことを強く意識している。

西川楓

高いコミュ力を持ち、幅広い交友関係を築くギャル。唯一、江南に対して気後れすることなく、対等に付き合うことができている。

大楠紗香

直哉の妹で乙女ゲームに入れ込むオタク。兄とは対照的にずぼらな性格をしている。


他人を寄せつけない無愛想な女子に説教したら、めちゃくちゃ懐かれた/感想・レビュー

第5回カクヨムWeb小説コンテストラブコメ部門特別賞を受賞した作品になります。もともとはカクヨムで投稿、連載されているもので、それを書籍化したものです。
そのため、一冊として綺麗に物語がまとまって完結している形でありません。導入に近く、それゆえに、これだけで面白い物語と評価するのは難しくはありますが、面白そうな物語であるという印象は、しっかり与えてくれました。
本作の一番のウリは、魅力的なキャラクターにあると感じました。ライトノベルはキャラクター小説ですから、言うまでもなくキャラ立ちが肝です。とりわけ恋愛ものだと、行きつく展開やパターンが限られていることもあり、読者が作品に求める大部分はキャラクターというものが占めていきます。タイトルで大筋の流れが伝わるともなれば、なおさらです。
その点で言うと、主人公の大楠直哉とヒロインの江南梨沙は、この二人が生むドラマを見たいと感じさせるとても良いキャラをしていました。
いわゆる優等生と不良の組み合わせという設定ですが、ただの定型ではなく、そのバックグラウンドをしっかりと練り上げ、個性を作り上げています。
特にキャラの弱みの部分が繊細に描かれているのが秀逸でした。豊かで深みのある人間性が緻密に表現されています。「弱さ」という人間的な未熟さや不完全さは青春ものにおいて欠かせないファクターでもありますので、そこの描写に力が入っていると繰り広げられる人間ドラマへの期待感がやはり増します。
この作品には、タイトルにもあり、物語で一つの重要ポイントになっている「説教」という独特の行為があります。これを物語のはじめの方に自然に扱って成立させることができたのも、キャラクターに安定性があった紛れもない証左でしょう。
本来説教という行動をキャラにとらせるのは難しく、例え正論であっても、それを口にする人物によっては、読者にとって好意的に受け入れがたくなってしまうものです。
ましてや、直哉は、真面目な優等生でいろいろこなせる完璧型でした。それが故に説教が鼻について共感性を失ってしまうリスクもありました。しかし、冒頭に人物を形成した過去に触れたり、説教時も正当性の部分をむやみに主張しなかったり、弱い部分を晒してみたり、巧みな工夫で緩和しながら乗り越えています。
はやい段階で見どころが欲しいと説教シーンを可能な限り前に寄せながらも、必要な部分を丁寧に積み重ねた無駄の少ない良い序盤に感じられました。
もちろん説教という性質上、万人受けせず、読者の価値観次第で好き嫌いが分かれるところでもあります。しかし、だからこそ、ここを自然と受け入れられる読者は、きっとそこから紡がれる物語が気になり、深くのめり込んでいくであろうと思います。
一つ注意点をあげると、ラブコメ部門での受賞ではありますが、恋愛的な甘い要素やコメディ的なお笑い要素は、それほど強いわけではありません。典型的なラブコメスタイルよりも、恋愛青春ものの方に系統が比較的近いかもしれません。
ジャンルの好みがマッチするのであれば、良質なクオリティで十分な期待感も抱けますので、是非読んでみてほしいおすすめの作品です。 

ひとくちおすすめポイントまとめ

  • 説教からはじまるラブコメという独創的で興味深い恋愛!
  • 弱さを抱えながらもがくキャラクターの楽しい人間ドラマ!

おすすめラノベ紹介/チヨダク王国ジャッジメント 姉と俺とで異世界最高裁判所

チヨダク王国ジャッジメント 姉と俺とで異世界最高裁判所

チヨダク王国ジャッジメント 姉と俺とで異世界最高裁判所【電子特典付き】 (MF文庫J)

レーベル;MF文庫J
著者;紅玉 ふくろう
イラスト;jonsun
発売日;2021/3/25
関連ワード;異世界 裁判 ファンタジー 法律 姉

チヨダク王国ジャッジメント 姉と俺とで異世界最高裁判所/カンタンなあらすじ

ゲーム好きの少年・佐藤アクトが、義理の姉であり裁判官の我妻ツカサと居酒屋で飲んでいると、二人して突然異世界へと召喚されてしまう。
そこは、アクトが普段ゲームで目にして、想像したようなファンタジーな風景とはどこかズレていた。
人間とは異なる種類の生物が歩き、生活しつつも、建物や道路といった構造物がアクトやツカサにとって馴染み深い日本のものが扱われた妙な既視感のある世界。
その地は、大規模なコピペ魔法によって、日本の千代田区をほとんど模倣してできた「チヨダク王国」という国家だった。
現代日本の優れた文明やシステムをどんどん取り入れることで急速に発展、繁栄したチヨダク王国だったが、その裏側ではそれぞれの成立に正当な歴史の積み重なりが無視されたことによる歪みと混乱が起きていた。
混乱を収め、秩序を保つために、日本の法律をそのまま施行する形をとっていたが、それもまた王国民全体の理解が乏しく、正常に機能していない問題を抱えていた。
アクトとツカサは、自分たちを召喚したチヨダク王国の代表である伊藤エクスタシアに、日本の正しい裁判的統制を国にもたらすようお願いされるのだった。


チヨダク王国ジャッジメント 姉と俺とで異世界最高裁判所/登場人物紹介

佐藤アクト

高校二年生の純日本人。ゲーム好きで、ファンタジー異世界についても詳しい。姉と共に異世界である「チヨダク王国」に召喚され、そこで裁判所補佐官の役目に就く。

我妻ツカサ

アクトの義理の姉で重度のブラコン。司法試験をトップで突破し、史上最年少で裁判官になった稀代の才女。アラサーでありながら、転移の特典で15歳の体になっている。

伊藤エクスタシア

チヨダク王国の実質的な国のトップだが、まだ若いため自ら王女と名乗る。底抜けなほどゆるく天真爛漫な性格で、さらに国を豊かにしていったことから国民からの人気は高い。

加藤シロ

幼少の頃より王家に仕える犬耳のメイド長。エクスタシアの命令により、アクトの世話係となる。感情を抑えることを義務付けられていたため、無表情。

斎藤イレアナ

王宮府の重臣であるハーフエルフ。王国の司法試験に合格した検察官。ライトノベルをきっかけにして日本文化にのめり込む。

勇者ラマン

齢70になる年老いた勇者。魔王を討伐した英雄だったが、現在はうらぶれて酔っぱらいの浮浪者のような見た目をしている。「神炎」のスキルの使い手で、パーティを焼殺した事件の被告人。

チヨダク王国ジャッジメント 姉と俺とで異世界最高裁判所/感想・レビュー

第16回MF文庫Jライトノベル新人賞最優秀賞に選ばれた作品になります。総数1913本の中の頂点ということもあり、大変魅力的な輝きが詰まった作品でした。特に発想と設定の面がユニークで、それらを支える著者の知識量もまた素晴らしいものがありました。
本作は分類としては異世界ファンタジーものに属します。現代人の主人公が召喚されることも含めて、WEB小説やライトノベルにおいてはいまや巷に氾濫し、珍しさもない設定の物語です。もちろんそこは、多くの作品に埋もれず、他と並んでも見劣りしないような工夫がありました。
その一つは、ありがちな冒険やバトルに頼ったものでないことです。この作品のメインテーマとなったのは、「裁判」になります。ライトノベルとしては非常に珍しく、農業であったり、商業といったものよりもとっつきにくくなかなか扱われない題材かもしれません。
法律というとお堅く小難しいイメージがあるため、読者の食いつきが悪いことも想定されます。しかし、あえてそうした部分に踏み込んだ意欲と挑戦心は、素晴らしいです。構成された物語の厚みもしっかりと法律の仕事に携わった著者の知識と経験で裏打ちされています。
もう一つの工夫は、舞台をファンタジー異世界にしつつも、ありがちな西洋系をメインにせず、日本の一地域である千代田区を混ぜてしまうという発想です。和風とも一線を画す描き方は、とても新鮮で惹きつけられます。
法律と異世界という一見、親和性のないものを混ぜ合わせつつ、エンタメの形にしたのも見事でした。異世界が日本を模しつつも、それがゆえに問題が生じ、日本の法律を必要とするという「日本の裁判」を効果的に使うための設計は他では見られず、とても面白いです。勇者が被告人というのも、ワードだけでも愉快さとワクワク感が突き抜けてます。
唯一、欠点と言えそうな部分は、読み手にとって少しコストが重そうだという点でしょうか。
まず法律という専門要素がかなり大きいものを占め、それに加えて、ファンタジーならではの設定部分の説明でコストが増してしまいました。読み手の理解への負担の肥大化は、やはり無視できません。
著者も意識してか、展開の運び含めてかなり軽めにしようとされてはいます。個人的な感覚としては、より強く、もっと異世界部分の一部設定などを典型的なものにしたり、簡素にしたほうが、理解が進み、読みやすくウケの幅が広くなりそうです。娯楽に溢れた現代で我々読者の贅沢化は留まることを知らず、面白さのみならず、手軽さと親切さも同じくらいには求めてしまいます。
作品のキャラクターについては、メインのアクト、ツカサ共にお話を動かす存在として、良い味を出していました。
裁判を主軸にして裁判官役が姉のツカサだと弟のアクトの存在感や役割が弱くなるのかなと最初思いました。そこは、ジャッジとは違う部分をアクトが全般的に司ることでしっかり立ち位置を強く主張することができていました。
ツカサもヒロインキャラとして魅力が高めで、特にオン・オフのギャップが強めのところが好印象です。公私の使い分け自体は、優秀な姉キャラとしては典型的な要素と言えるかもしれません。しかし、裁判官という役割がつくことで熱さ、カッコよさ、厳粛さを感じさせるシーンが表現されたのは、この作品ならではの特別心惹かれるポイントです。
恋愛要素はそれほど強くありませんでしたが、今後が描かれるとしたら、そうした面も期待しつつ、楽しみに待とうと思います。

ひとくちおすすめポイントまとめ

  • 法律と裁判を扱った異色の異世界ファンタジー
  • 裁判官として、魅力的な色を主張するヒロインキャラ!

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